今日聴いたコンサート@ルドルフィヌム ドヴォルザーク・ホール
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会
(ABチクルス第4回 / 第1日)
指揮:ワルター・ヴェラー
ヴァイオリン:リーラ・ジョセフォヴィッツ
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品77
アンコール/曲目不明 (ヴァイオリン独奏)
グラズノフ:交響曲第5番 変ロ長調 作品55
10時からチェコ・フィルの公開ゲネプロ。先月も同じような機会がありましたが、今日も特に子供たちを対象としていて、学校単位で先生に連れられた子供たちが賑やかにやってきました。余った席は大人にも売られます。
この企画、客席が少々うるさいのは問題ですが、メリットもたくさんあります。まずは教育活動になること。とは言っても日本の音楽鑑賞教室の類とは違い、大人の演奏会と同じ内容のものを同じホールで体験させるというところに意義があると思います。要するに大人の文化をそのまま体験させるということですね。ホールに来て、クロークにコートを預け、ブザーが鳴って自分の席について、というのは実際の演奏会と全く同じ流れで行われます。子供に公開するゲネプロのプログラムは慎重に選ばれているとは思いますが (例えば、一般的に考えてマーラーの9番などは適さないでしょう) 、かといって全く子供向きのものではありません。私はこれでも構わないと思うんですよね。ショスタコーヴィチの協奏曲なんて子供に聞かせて分かるのか、という意見もあるかもしれませんが、スケルツォのリズムに合わせて楽しそうに踊るような仕草をしていた可愛らしい女の子を見る限り、問題なしだと思います (話が脱線しますが、一列目でぱっくり口を開けてリーラ嬢に見とれたまま固まっている男の子もいました (笑)) 。日本の音楽鑑賞教室の場合、実際には学校の指導要領の影響を受けている場合が多いのが実情です。また、あくまでゲネプロなので、指揮者によっては途中で止めたり、通してから何箇所かを練習されたりしますが、そういった「職場訪問」を兼ねることが出来るのも、彼ら子供たちにとっては良い体験になるのではないでしょうか。
子供うんぬんの話からは外れますが、公開ゲネプロはオーケストラにとっては、本番に近い雰囲気でゲネプロが出来るので、本番への布石としてより効果があります。さらに、お客が入っていることで、本番と全く同じアコースティックを事前に把握できます (ドヴォルザーク・ホールも、ご多分にもれず、聴衆がいる時といない時ではホールの響きにかなりの差があります) 。私の観察によれば、コンサートの時とは客層が違うので (公開ゲネプロでは音楽学生さんとご老人が多いように思われます) 、少なくともここでは本番での集客には影響もないと思われます。
今回は比較的長いプログラムなのですが、さらに公開ゲネプロでは各曲前に解説も入るので、終わったらほとんど13時になっていました。
夜のコンサートは心から感激しました。ショスタコーヴィチのジョセフォヴィッツさんの演奏は少々アメリカ的な開放感と色っぽさを感じさせるもの (彼女はカナダ生まれですが、アメリカ育ちです) で、好みの分かれるところかもしれませんが、カデンツァであのルドルフィヌムの聴衆を完全静寂に持っていったところはお見事であるとしか言いようがありません。技巧は完璧で、彼女にとってはこの協奏曲は簡単すぎるのではと思ったくらいです。第4楽章が始まってすぐ、ヴァイオリン・ソロとクラリネットのタイミングが難しいアンサンブルがあるのですが、その部分が終わった時に彼女が弾きながらクラリネット奏者の方を向いて「うまくいったわね!」とニッコリ微笑んでいるのを見た時には「どんだけ余裕なんだー!」と心の中でのけぞりました。
指揮者のワルター・ヴェラーさん (1939年ウィーン生まれ) は実に素晴らしい指揮者で、今回はリハーサルの段階から非常に勉強になりました。指揮者として完璧な体と心の保ち方、バトン・テクニックそしてリハーサル・テクニックをお持ちです。スコアも完全に把握していて特にチャイコフスキーとグラズノフ (!!) はリハーサルの段階から暗譜状態でした。必ずしも日本ではメジャーな指揮者ではないかもしれませんが、もともとはヴァイオリン奏者で、17歳 (一部の資料では19歳) の時にウィーン・フィルに入団、20歳でミュンヘン国際音楽コンクールで優勝、22歳でウィーン・フィルのコンサート・マスターに就任してボスコフスキーと共に一時代を築く傍ら、ヴェラー弦楽四重奏団を結成して室内楽の分野でも高く評価されました。その後30代で指揮者に転向したのですが、ご本人の言によれば指揮法の基礎は独学とのこと (どうしてそれであんなにパーフェクトな棒が振れるのか・・・) ですが、ヨーゼフ・クリップスには多くの助言をもらったそうで、実際にはクリップスが師匠であるとのこと。何でもヴェラーさんがオペラを振っている時に、クリップスがよく客席で見ていてくれたそうで。いやはや何とも贅沢というか住んでる世界のレベルが違いすぎるというか・・・
大分長くなってしまったので、グラズノフその他の感想はまた明日まとめたいと思います。