この11日間、ロヴェレートからバスで小一時間ほどのところにあるリヴァ・デル・ガルダという町で開催されているムジカ・リヴァ・フェスティヴァルの指揮法マスタークラスを受講していました。毎日日記を書く間もないほどてんこ盛りの毎日でした! 長くなるかもしれませんがまとめてみたいと思います。
リヴァ・デル・ガルダは湖 (海かと思うほど大きいです) 沿いの町で、ヴァカンス客で大いに賑わっています。美しい場所でお勧めです。みんな泳いでます!
講師はイザーク・カラブチェフスキー先生。大変失礼なことに先生に関しては何の予備知識も無しに行きましたが、まことに尊敬すべき素晴らしい先生であり指揮者でした。圧倒的な頭の良さで、私たちが勉強するスコアは勿論完全に頭に入っていますし、語学も母国語であるポルトガル語 (先生はブラジル生まれです) は当然として、その他イタリア語、スペイン語、ドイツ語、英語は完璧ですし今回は耳にすることはありませんでしたがフランス語も話されるようです。指揮法は実に無駄のないシンプルで正確なものですが音楽にはパッションが満ちあふれています。
しかし先生の最も素晴らしいのはその心の保ち方です。どの受講生に対しても徹底的に公平で、私たち受講生が優劣の感情を持つことをとても嫌います。先生自身が指揮をされてオーケストラと練習をなさる時には熱くなることもおありになりますが、そんな時、次の瞬間には必ず冗談を言ってオーケストラをリラックスさせ、ご自身もクールダウンさせます。指揮者には色々な自分の感情のセルフ・コントロールの仕方があると思いますが、常にクールに振る舞うよりも、先生のような方法のほうがはるかに音楽に対する情熱とオーケストラを尊重する気持ちの両方がダイレクトに表出されていて好ましいと思いました。
受講生は13人。イタリア人と日本人が各4名、ブラジル人とロシア人が2名ずつ、スペイン人が1名という内訳でした。日本人が多いですね・・・ みんなそれぞれに優れたところのあり、しかもかなり個性的な面々でした。
課題曲は4曲あり、ボロディンの「ダッタン人の踊り」、リムスキー=コルサコフの序曲「ロシアの復活祭」、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、そしてバルトークのオーケストラのための協奏曲でした。
オーケストラはユンゲ・フィルハーモニー・ザルツブルクという団体で、ザルツブルクで音楽を勉強されている方々を中心に結成されているようでした。私は今回先生から多くを学んだのと同じくらいこの若い人たちのオーケストラから学ぶものが多かったです。課題曲を見ていただければ分かりますがどれも大変演奏するのがハードな曲です。オーケストラのスケジュールは基本的に午前中からお昼にかけて4時間私たちのレッスンに付き合い、夕方から3時間は先生との演奏会のリハーサル、これを連日という厳しいものでした。それでも彼らはある時は一日で4回も「ダッタン人の踊り」をニコニコしてアグレッシヴに通しているのです! その光景を見ていて私は何か自分がここしばらくずっと忘れていた何かを思い出したような気がしました。しばらくあとで解ったのですが、それは、音楽をするのは楽しいことだという、最も基本的で大切な感情でした。ああ!
私は今回の講習会がもしかしたら自分が生徒としてレッスンを受ける最後の機会になるかもしれないとの思いから、一回一回を大切に、毎回十分に準備してから、最低でも暗譜で振れるくらいにはなってから指揮台に上がるよう特に心掛けました。そんなことは当たり前のことなのですが、またそれを意識的に集中的にやってみることで得るところはあったと自分では思っています。
現地に着いてから知ったのですが、講習会の最後には受講生によるコンサートがありました。会場が野外だったのですが (中庭のようなところで音響が抜群なのです) 、実はこのコンサートが本番が始まって3分ほどで雨のため中断、再開するもまた6分ほどで雨が降ってきて結局その日は中止となり、2日後に延期されてしまいました。そのため私たちのほとんども滞在を2日間延ばしました。しかし結局この日 (31日) も夕方雨が降ったために会場を近くのコンヴェンション・センターに替えて演奏会を行いました。ここは音響が非常にデッドでそのことは残念でしたが、演奏会を中止にすることだけは何があっても避けてくださった、音楽祭を運営されている方々には感謝しなくてはいけません。私たちのために逆にキャンセルとなった演奏会もあったのです。
私はチャイコフスキーの第2楽章を振りました。毎日色々な曲を振った中でこの第2楽章が一番先生に対して印象を残したということのようでした。ピアノのモンシェルさんも学生さんで色々とディスカッションすることが出来楽しかったです。しかし本番ではもう少し自分がモンシェルさんとオーケストラに対してフォローできるやり方があったのではと思うところがあり内心実に悔しい思いが残りました。しかしそれを他の受講生の1〜2名にちょっと漏らしたところ「おまえはあれでも納得しないのか。ノー!!」という反応でしたので、「これが最後の勉強の機会かも」という気持ちが私を必要以上に神経質にしていたのかもしれません。
21時半開演のこのコンサート、本番が終わってのんびりと撤収し、さあ打ち上げという時に時計を見たらもう1時近く! 次の日早いので打ち上げは諦めてホテルに戻らなくてはならなかったのはある意味本番での自分の出来以上に悔しかったかもしれません。
音楽祭中は2つの演奏会を聴きました。そのうちの1つ、カラブチェフスキー先生とオーケストラとの演奏会も雨で延期された演奏会でした。それからヴァイオリンのノルディーオさんの演奏会では風がひどくて、ヴァイオリンのパート譜が風でめくれてしまったため、ピアニストの楽譜を後ろから覗きこむようにして必死で弾いていた氏の姿が忘れられません!
まだまだ思い出は山のようにありますが、今日はこのくらいで。思い出の断片を8月、特に何も用事がない時にまた書くかもしれません。
23日に聴いたコンサート@Cortile della Rocca (Riva del Garda)
ドメニコ・ノルディーオ ヴァイオリン・リサイタル
ピアノ:アンナリーザ・ロンデーロ
ブラームス:F.A.E.ソナタ から 第3楽章「スケルツォ」
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ニ長調 作品12-1
ドヴォルザーク:4つのロマンティックな小品 作品75
パガニーニ=クライスラー:ラ・カンパネッラ
パガニーニ=クライスラー:前奏曲とアレグロ
パガニーニ=シマノフスキ:3つのカプリス
アンコール/クライスラー:愛の喜び
アンコール/クライスラー:愛の悲しみ
アンコール/ (曲目不明)
アンコール/クライスラー:美しきロスマリン
27日に聴いたコンサート@Cortile della Rocca (Riva del Garda)
Concerto sinfonico
指揮:イザーク・カラブチェフスキー
トランペット:マルコ・ピエロボーン
ファゴット:ヴァレンティーノ・ズッキアッティ
フルート:アンドレア・オリーヴァ
ユンゲ・フィルハーモニー・ザルツブルク
ハイドン:トランペット協奏曲 変ホ長調 Hob. Vlle: I
モーツァルト:ファゴット協奏曲 変ロ長調 KV 191
モーツァルト:フルート協奏曲第2番 ニ長調 KV 314
バルトーク:オーケストラのための協奏曲 Sz.116
31日の本番@Il Palazzo del Congressi, Sala 1000 (Riva del Garda)
Diretta dagli allievi del corso di perfezionamento
ピアノ:フランチェスコ・マリア・モンシェル
ユンゲ・フィルハーモニー・ザルツブルク
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23 第2楽章