Diary


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 お昼に入ったレストラン、水が250ミリリットルで15コルナ (約90円) 、ビールが300ミリリットルで18コルナ (約108円) でした。他の飲み物はもっと高いです。さて、皆さんならどちらを飲みますか?


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 今日観た公演@プラハ国立歌劇場

 プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」

  指揮:イルジー・シュトルンツ
  演出:カレル・イェルネク

  蝶々夫人:クリスティナ・ヴァシレヴァ
  スズキ:ヤナ・シーコロヴァー
  ケイト:ジャナ・レヴィツォヴァー
  ピンカートン:トマーシュ・チェルニー
  シャープレス:マルティン・バールタ
  ゴロー:イルジー・フルシュカ
  ヤマドリ:ヤン・オンドラーチェク
  ボンゾ:イェヴヘン・ショカロ
  ヤクシデ:ミロスラフ・スヴォボダ
  神官:ミロシュ・ホラーク
  書記:スタニスラフ・レーマン
  蝶々さんの母:イトカ・ズィホヴァー
  叔母:マルケータ・ヴィチョヴァー
  従姉妹:ダニエラ・ラドサ
  子供:パヴリーナ・フラホフツォヴァー

  プラハ国立歌劇場管弦楽団・合唱団


 邪悪な私は演出がどれだけ日本について無知であり、誤解をしているかを楽しみに出掛けてしまいました。その意味では、全くもって期待を裏切られない公演でした。

 幕が開くと山水画を模したと思われる舞台後方の巨大な幕にびっくり。意味が分かりませんでしたが、やっと第2幕くらいになってそれが長崎だと理解できました。あまりに時代が違いすぎる絵・・・

 蝶々さんとピンカートンの家も私の目には随分とスタイルの違うものがごっちゃになっていた気がしましたが、それは良いとして (ただ障子くらいはあってもよいのでは) 、蝶々さんのお友達たちが登場したら途端に蝶々さんの家の縁側をいきなり土足で占拠してしまったのには「ダメー!」と心の中で叫んでしまいました。

 さらに衝撃的なことに、彼女たちは退場する時に蝶々さんの家の中を駆け抜けていったのです。畳の間をです。蝶々さんの改宗に対して怒っていたのでしょうが、ほんと容赦がない人たちですね。

 神官の衣装は明らかに時代劇からヒントを得てきたようなもので笑えました。大岡越前が執り行う結婚の儀!

 第2幕。シャープレスも靴のまま畳の上を歩きますが、蝶々さんも全く咎めず。もう畳もどうせボロボロですもんね。部屋の内部で言うと、蝶々さんのお父さんの形見である刀が壁にくくりつけてぶら下げてあったのが印象的。確かにそのほうがいつも見れますもんね。蝶々さんも考えたもんだ!

 スズキの働きっぷりも見もの。「花の二重唱」、最初のうちは花瓶に花を差すばっかりで冷や冷やしましたが、そのうちやっと部屋と庭に花を撒き始めてくれました。ところがスズキの撒き方といったらまるで「給料もろくにもらえないのにこんなことまでさせられてマジウゼー」と言わんばかりの雑な撒き方、というかむしろ投げ方。花にこめる愛情などまるでなし。

 そんな勤務態度だからか、蝶々さんのスズキに対する接し方も時にはきつくなります。全曲を通じて3度ほどはスズキを張り倒していたのではないでしょうか。あれは虐待もの。そう考えればスズキのふてくされっぷりにも納得です。

 これは日本的うんぬんと関係ないことですが、幕切れ間際に蝶々さんが死を思わせる黒の衣装で出て来たことを私は全く理解できず。この場面では蝶々さんは遂にピンカートンに会えると思って期待に満ちあふれて登場し、しかし実際にはケイトと対面してしまうことによって彼女が信じてきたものの全てが崩壊してしまう、この心理的プロセスを見せなければ何の意味も無いと思うのですが、その時に真っ黒の着物で蝶々さんを登場させるとは、その意図たるや如何に??

 蝶々さんは自害を決めたあと、子供 (女の子であるという設定は初めて見ました・・・) にヨーロッパ風のご挨拶キスをして遊びに行かせます。ピンカートンに教わったのでしょうね。

 そして蝶々さんは壁にかけてあった父の形見の刀を手に取ります。なるほど、いざという時にはすぐ取れるようにしておいたのですね。蝶々さん賢い!

 でも、切腹の時に衣装が黒というのは・・・やはりここは白であるべきでしょう。

 随分散々な書き方をしてしまいました。ただ、私はこれらのことを根拠に「悪い公演だ」と言うつもりは全くありません。ここでは、日本に関して入手できる情報も非常に限られているのも確かなことですし。それにヨーロッパの人たちが観劇する分には、私が挙げたことなどどうでも良いことでしょう。ジャポニズムが感じられれば十分なのでしょうから (皮肉も何もなしに言っています) 。同業の先輩が中国の歴史か何かの専門家の友人に「トゥーランドット」のヴィデオを見せたという時のエピソードを思い出します。「あの時代にあの服装はありえない」などと不満を滔々と述べる専門家氏に先輩が「で、全体としてはどうだったのさ?」と聞いた時の答:

 「泣いた。」

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