今日観た公演@プラハ国立歌劇場
バーンスタイン:「キャンディード」
指揮:ギョーム・トゥルニエール
演出:ミハル・ツァバン、シモン・ツァバン
キャンディード:アレシュ・ブリスツェイン
クネゴンデ:ヤナ・シベラ
パングロス博士:イルジー・コルン
マキシミリアン / 船長:ヴァーツラフ・シベラ
総督 / ヴァンデルデンドゥア / ラゴツキー:リヒャルト・サメク
オールド・レディー:イジナ・マルコヴァー=クリストリーコヴァー
パケット:マルティナ・バウエロヴァー
錬金術師 / アフメット皇帝 / 悪漢:ヤン・オンドラーチェク
化粧品売り / 第1の審問官 / チャールズ・エドワード:ニコライ・ニコロフ
医者 / 第2の審問官 / イワン皇帝:ミロシュ・ホラーク
熊の番人 / 第3の審問官 / 賭博の元締め:スタニスラフ・レーマン
くず屋 / ヘルマン・アウグストゥス:オルドジハ・クジーシュ
スタニスラフ王:トマーシュ・キンドル
男爵:フランティシェク・リシャヴィー
男爵夫人:ヤナ・マジーコヴァー
プラハ国立歌劇場管弦楽団
プラハ国立歌劇場合唱団 (合唱指揮:トブルトコ・カルロヴィチ)
プラハ国立歌劇場バレエ団 (振付:レギナ・ホフマノヴァー)
まさか「キャンディード」の舞台上演をプラハで見られるとは思ってもいませんでした。私はこの作品の大ファン (という割には、主要キャスト以外の役柄を正しく把握できておらず、チェコ語と英語の両方から試みた上記キャスト表の日本語訳には全く自信がありません) で、東京でも佐渡裕さんが指揮された新日本フィルの演奏会形式の上演、東京国際フォーラムでの公演、オーチャードホールでの公演と機会あるごとに足を運んだ記憶があります。
今回のプラハ国立歌劇場の公演はかなり気合いの入ったもので、大変に楽しめました。オーケストラもいつもよりも弦の人数が多かったし、指揮には音楽監督であるトゥルニエールさんが登場、左手に指揮棒を持たれていたのには驚きましたが、非常に若々しく小気味良い音楽作りはこの作品に適していたし、すっと心に入ってきて素晴らしかったです。
演出がまた素晴らしかった。この作品はとにかく舞台化が難しいと思います。何せ場面が変わり過ぎる。演出のツァバン兄弟はこの問題を、5〜6体のパイプと木材 (?) で作られた建物やスロープなどを様々に組み合わせることによって素早い転換を実現し、見事に解決していました。曲間のパングロス博士のナレーションの間に緞帳を降ろしてその間に転換をしたり、時には転換そのものをお客に見せてしまったり (私には演劇の演出作法には詳しくありませんが、やはりこのような「転換見せる系」の演出作法のオペラに携わったことがあるので、こういうスタイルがあるのだと思います) 。全曲を通じて数十回の短時間での転換、舞台スタッフには本当にお疲れさまと言いたい感じです。でもそのおかげで楽しめました。
お疲れさまといえば歌い手の方も。殆どの音楽の間中ずっと回転舞台が廻りっぱなしだったので、歌い手の方はほとんど常に歩きながら歌っていました。相当な運動量なはずです。でもこの作法が、音楽のスピード感とお話のめまぐるしさを存分に引き立てていました。
上演は音楽が原語 (英語) 、セリフがチェコ語によって行われました。字幕にはそれぞれ対になる言語が表示されていましたが、字幕操作はお世辞にも上手とは言えず (特に、日本の字幕操作の方々がどれだけそのタイミングに神経質であるかを知る身としては) 、時には2秒以内に3回も字幕が進んでいく時もあって、速読の練習かと思ったくらいでした。
歌手陣は総じて高いレベルにありましたし、アンサンブルもよく練習された感じが出ていました。クネゴンデがアリアのカデンツァ部分でハイFまで音を上げるヴァージョンというのは初めて聴きました (楽譜にはないはずです) ! キャンディード役の方の若々しくて張りのある声も気持ちが良かったです。
プログラムには指揮者と演出家のメッセージも掲載されていて、指揮者トゥルニエール氏の文章からは「キャンディード」に含まれた多くの作曲家のスタイルの引用を改めて学ぶことができましたし、演出のツァバン兄弟の文章には、「この物語はハッピー・エンディングではない」と書かれ、バーンスタインが書いたフィナーレの音楽への違和感が述べられていて、なるほどなと思うところがありました。ここらへんのところは、民主主義の国に生きた作曲家と、社会主義の国に育った演出家に、解釈の違いが生まれてくるのは自然なことなのかもしれません。
小さいものですが、歌劇場のホームページでいくつかの舞台写真を見ることができます (http://www.opera.cz/en/repertoar/candide.html?im=9) 。
今日のBGM: バーンスタイン:「キャンディード」
デイヴィッド・スタール指揮ベルリン・ドイツ交響楽団 ほか
(2005年録音、Capriccio)