ここのところ、一日があっという間に過ぎていくので、なかなか日記もゆっくり書けずにいます。毎日稽古に通っていますが、ダンサーの方々からはもちろんのこと、経験豊かなリハーサル・ピアニストの方々から学ぶこともとても多いです。
バレエの公演ですから、自分の好きなテンポで振って、「これが自分の音楽だ!」と言っていればよい、というものでは全くありません。あくまで総合芸術なので、舞台が最も美しく進行するテンポを作って、その中で音楽を成立させていくのが私の役回りであると言えます。そういった役回りを務めることに私は抵抗はないほうなのですが、最初は頭では理解はしていてもどうしても心から賛同できないテンポというのもありました。しかし、長い稽古の中で、振付・演出の石井さんの思いを知り、石井さんと時間をかけて曲を選び、編曲し、初演の指揮をされて、今回も指揮をされるはずだったロビンさんの思いを次第に察し、初演の時の稽古からずっと弾いてきたピアニストの方々の思いを知り、この公演に賭けるダンサーの方々の切実さと真摯さを見ていて、ここへきて全てのテンポが自分の心に落ちてきた感覚を覚えています。振付家も、編曲者も、ピアニストも、ダンサーも、本番ではテンポを作れません (ダンサーだけは、踊りながらテンポを示すことは出来ますが、曲の出だしのテンポはやはり決められません) 。彼らの思いを、本番に向けてさらに自分の中に落とし込んでいければと思っています。
話がずれますが、先日ピアニストの方に山口智司著「教科書には載せられない暴君の素顔」 (彩図社、2008年) という本を貸していただきました。もっと稽古場で残虐に振る舞え、というメッセージではないとは思いますが! 人間の恐ろしさがてんこ盛りになっている本です。文章自体は大変読みやすいものでした。先週はあと田才益夫訳で「カレル・チャペック短編集」 (青土社、2007年) を読みました。チャペックの短編物は私のお気に入りです。田才氏の訳によるチャペックものは何冊も出ていますが、読みやすくてお勧めです。
TDK Coreから廉価にて発売されていたTDKオリジナルコンサート・セレクションの全22種のCDをやっと聴き終えました。オーケストラもので最も充実していたと私が思ったのは、ウィーン・フィルでもシュターツカペレ・ドレスデンでもなく、テンシュテットが指揮したロンドン・フィルの演奏会。ぴっしりと引き締まった響きのブルックナーの4番はとても説得力の高いものでした。室内楽のものでは、シェリングのバッハと東京クヮルテットのものに感銘を受けました。
あんまり書くと、もう少し勉強をしなさいと怒られそうですが、ここ一週間の間には親しい同業者の方々や、長年の仕事仲間とゆっくり食事をしたりも。木曜日には、新国立劇場の小劇場で東京室内歌劇場のフィリップ・グラスのオペラ「流刑地にて」 (日本初演) のゲネプロを見学させてもらいました。指揮をされていた中川賢一さんとはかつてコンチェルトをご一緒した仲 (中川さんの本職 (?) はピアニストです) 。現代ものを得意とされているだけあって、楽曲の掌握力が抜群でした。ピットは弦楽五重奏の演奏なのですが、その核となっていたクァルテット・エクセルシオの演奏レベルの高さにも驚きました。それから土曜日には東京交響楽団の演奏会を聴きに行きました。ヴォーン=ウィリアムズの交響曲第1番は演奏も充実していたし、暗譜の東響コーラスも驚異的でしたけれど、私としては、このどちらかといえばマイナーな交響曲を聴衆が終始高い集中度で聴いていて、最弱音で終わる全曲のコーダでは会場全体がものすごい静寂に包まれた、ということが最も印象に残りました。東京の聴衆は本当にレヴェルが高い!
16日に聴いたコンサート@東京芸術劇場 大ホール
東京交響楽団 大友直人プロデュース 東京芸術劇場シリーズ第95回
<ヴォーン・ウィリアムズ没後50年記念>
指揮:大友 直人
ヴァイオリン:大谷 康子
ソプラノ:サリー・ハリソン
バリトン:オーエン・ジルフーリー
東響コーラス (合唱指揮:辻 裕久)
ヴォーン・ウィリアムズ:「グリーンスリーヴズ」による幻想曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
アンコール/J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV 1004
第1曲「アルマンド」 (前半部分)
ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第1番「海の交響曲」
BGM: ライネッケ:フルート・ソナタ「ウンディーヌ」
エマニュエル・パユ (Fl.)、イエフィム・ブロンフマン (Pf.) (2006年録音、EMI Classics)