Diary


5/11

 第二次世界大戦中、ナチスによってユダヤ人の強制収容所が置かれた町、テレジーン (テレージエンシュタット) に行ってきました。プラハからはバスで1時間弱、のはずなのですが、行きはプラハ市内の道が混んでいて1時間15分ほどかかりました。道中、特大スケールの菜の花畑がずどーんと広がっていて美しかったです。写真に撮りたかったのですがバスだったので無理でした。残念。


 バスはゲットー資料館という建物のごく近くで止まったので、まずはこの資料館から訪れました。それからもう一つ別の資料館にも。様々な悲しい事実に触れることができました。が、長崎の原爆資料館を訪れた時のショックに比べれば、さほど強い印象を受けませんでした。

 しかし、公園を抜け、川を渡り、強制収容所に足を踏み入れてからは、

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 何とも言葉が出ません・・・

Terezinarbeitmachtfrei.jpg

 収容所は一部を除きほぼ当時のまま、手入れをせず、ほとんど廃墟のような状態で公開されています。当時の机が置かれ、当時のベッドの木枠が残され、首吊り台の残骸まで処刑場にありました。これは、変に当時の様子を再現して展示するよりもぐんとリアリティがあります。

 私の心を特に刺したことは主に2つあります。1つはこの収容所が大変システマティックに管理されていたであろう雰囲気が感じられたこと。あまりに整然としていて人間味がなく、ナチスが収容した人々を人間と見ていなかったという感じがひしひしと伝わってきます。それからもう1つは・・・この地がとても美しい土地であったということです。もちろん今は一番良い季節で、冬は寒くて厳しかったことでしょう。私が考えていたのは終戦時のことです。今から63年前の今日は既にこの収容所の開放は始まっていました。しかし当時ここではチフスが大流行していて、町は大変危険な状態にあったそうです。戦争が終わったのに、まぶしいほどの太陽の光の下、草木の香りを味わい、鳥の楽しそうな鳴き声を聞きながら、病気のために多くの人がここで亡くならなくてはならなかった! どれだけ無念だったことでしょう・・・

 収容所を見て回っていたら、だんだん頭が重くなって、しまいには頭痛がしてきてしまいました。実はプラハの部屋に戻ってきてから、少々寝込んでしまったほどでした。

Terezintree.jpg

 起きてから、売店で買い求めた、当時テレジーンで55回も上演されたというハンス・クラーサ作曲の子供オペラ「ブルンディバール」のDVDを見ました (蛇足ですが日本でも複数回上演されているようですね) 。もちろん当時の上演ではなくてごくごく近年の上演を録画したものです。チェコ語歌唱ですしハイスピードで変わってゆくドイツ語の字幕を懸命に追っても1度見ただけでは私には内容が良く分かりませんでした (悔しいです) 。しかし、言葉など分からなくても最後は朝が来て子供たちが元気に明るく歌って幕、という構成は分かります。これを見て私はまた悲しくなってしまいました。作曲家のクラーサはテレジーンからその後アウシュヴィツに送られて殺されます。そして当時このオペラを明るく歌った子供たちのほとんど全員もクラーサと同様ナチスによって殺されたのです!!

Terezincroce.jpg


BGM: クラーサ:子供オペラ「ブルンディバール」
    マリオ・クレメンス指揮フィルム交響楽団、バンビーニ・ディ・プラガ
                        (1990年録音、Romantic Robot)

Copyright©  Takeshi Ooi. All rights reserved.