Diary


6/12

 朝、もしベルリン・フィルのゲネプロがあれば見れるかもしれないとのことで、フィルハーモニーに行きました。しかしゲネプロは昨日だったよう。残念。

 昨日もお世話になった後輩指揮者N氏が来てくれてフィルハーモニーの周囲からソニーセンター、ベルリンの壁の跡のあたりを案内してくれました。ヒトラーが自殺したという場所の近くには、一際目をひく「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」があり、その地下の情報センターに2人で入りました。当時ヨーロッパにはユダヤ人迫害のための何らかの施設が200ヶ所もあったとは知りませんでした。

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 すぐ近くのブランデンブルク門の前にはこの街が分断されていた当時に壁を越えようとして殺されてしまった方々が弔われていました。その後しばらくして降ってきた雨が、ベルリンは悲しみを背負っている街であるという印象を私の中に強くしました。

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 昼食後は一人でドイツ歴史博物館とベルリン大聖堂を見学。大聖堂は壮麗で見応えあり。一番上まで上ってベルリンの街を眺めました。この頃になるとお天気も大分よくなってきてました。

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 フィルハーモニーに戻って再びN氏にお会いし、夜の演奏会のチケットを買いました。ベルリン・フィルの演奏会なのにそう高くない値段のチケットが当日本番数時間前でもさっと買えてしまったのは意外でした。

 チケット売場の近くにはベルリオーズの「幻想交響曲」で使う鐘が。いや何も説明書きはなかったのですがこの類の鐘が2つ置いてあれば「幻想で使う鐘」と相場は決まっています。本当はいけないのかもしれませんがそっと指で鐘を鳴らしてみて音程を確認してしまいました。どうでもいいことですが鐘にはベルリン・フィルの名前が彫られていて、相当気合いを入れて発注されたことが伺えました。

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 時間が余ったのでフィルハーモニー脇 (内と言うべきか) の楽器博物館へ。ラッキーなことにちょうど無料の時間帯に入れました。中でも気になったのは <Orthothonophonium> という四分音系の鍵盤楽器。誰かが颯爽と弾きこなしているところを見てみたいものです。

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 N氏のご友人も加わり、演奏会へ。


 今日聴いたコンサート@ベルリン フィルハーモニー

 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 特別演奏会

 指揮:サー・サイモン・ラトル
 テノール:ベン・ヘップナー (ジークフリート)
 テノール:ブルクハルト・ウルリヒ (ミーメ)
 バス:サー・ウィラード・ホワイト (さすらい人)

  ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指輪」 第2夜 「ジークフリート」 第1幕 (演奏会形式)

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 ベルリン・フィルを生で聴いたのは実は今夜が初めてでした。

 私はワーグナーの「指輪」とはかなり距離があり、精通するのはとても無理にしてもせめて親しめるようになりたいというのがとりあえずの今年の目標の1つ。今回自分なりにちょっとだけ下調べはしていったので、懸念していた聴いていて飽きてしまうということはありませんでした。ホッ。

 とはいえそんな状態なので、作品や歌手に注目するというよりは、ラトルとオーケストラの演奏そのものに注目して聴いていました。

 確かハイティンクが、何かのドキュメンタリーで「ベルリン・フィルを初めて振った時、その音量の大きさに驚いた」と言っていたと思います。そのことが記憶に残っていたので、期待しすぎたのかもしれませんが、意外にも音量的にはそれほどでもありませんでした (もっとも、歌ものなのでセーブしているのでしょうけれど) 。しかしながら、各パートのアンサンブル (特に弦楽器) と音色のまとまりようは尋常ではなく、なるほどさすがに世界一のオーケストラだなあと肝を抜かれました。

 音楽的にも技術的にも迷いがなく、常に高得点をはじき出しながら進む演奏には確実に感激しましたが、それでも実は聴きながら何か満足し得ないものを感じてしまっていました。最初はそれが何か分からなかったのですが、色々と考えているうちに少し見えてきました。

 ベルリン・フィルは本当に巧いオーケストラで、どんな音楽の表情も余裕を持って描き出します。私にはそれがもの足りなかった。ラトルもこの作品に取り組むことに対して余裕が感じられ、やはり私にはそれがもの足りなかった。

 つまり、今夜の演奏からは彼らの能力の、あるいはこの作品の持っている、何かぎりぎりのものが私には全く感じられず、それが私の心を満足させることを阻んでいたのでした。

 もちろん、私が初めて聴くベルリン・フィルに対して過度に期待し過ぎたということなのだと思いますが、でもこの体験がきっかけになり、色々と自分がやりたい音楽のことを考えるチャンスを得られたことは本当に幸いでした。

 そういったことと全く関係ないことでは、ドイツ語の字幕がわざわざ出ていたことが少々驚きでした。日本でも日本語のオペラに日本語の字幕を出すことがあり、これに関しては賛否両論ありますが、こちらではどのようにとらえられているのでしょうか。興味のあるところです。

 演奏会のあとはしばし後輩N氏とそのご友人との3人で夢中になって今夜の演奏について話し合いながらレストランへ向かいました。ご友人の方が私の宿に近いところの良いレストランを選んでくださってとても嬉しゅうございました。

 今日もホテルに戻ったのは午前様。

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