Diary


8/16

 またまた日記を書きさぼってしまいました。ここ10日ちょっとは特に書くようなこともなく、大抵の日はずっと部屋で過ごしていました。ずっと勉強してました、と書きたいところですが実際にはなかなかチェコ語の教科書や楽譜に向かう気になれずダラダラとしてしまった時があったのは我ながら情けなかったです。

 来月は月頭から日本に帰って、群馬交響楽団さんと名古屋フィルハーモニー交響楽団さんにお世話になります。また下旬にはイタリアのトレントにコンクールを受けに出かけます。一方日本滞在中は色々な人にお会いしたいですし、イタリアに行く前に5日間だけ戻ってくるプラハには、知人たちが遊びにやって来ます。そんなわけで、遊びに出かける前に宿題を片付ける小学生の如く、今のうちに机に向かっておかなくてはならないわけです。


 ここ数日読んでいる楽譜の中で一番譜読みに手こずっているのはコンクールの課題曲のうちの一曲、ウォルトンの「ファサード」、組曲ではなくてオリジナルの詩の語りと室内楽のヴァージョンの方です。シットウェルの詩は単語の意味を辞書で調べてみたところで文意は??だらけ (ほぼナンセンスな詩のようで) 。ウォルトンの音楽も親しみやすい顔をしているくせに実際にはひねりがとても多くて一筋縄ではいきません。語りのパートは最初自分でも楽譜通り語れるように試みてみたのですがあえなく撃沈。私には超難しいです。詩人のシットウェルが自ら語りを務めている録音があるのですが、早口のものはピーター・ピアーズに任せています。ネイティブでも難しいのでしょうね。

 ところで、今の形で日記を書き始めてから早いもので一年が過ぎました。プラハに来てからも11ヶ月が経過しています。チェコ・フィルの新しいシーズンも始まり (ただし定期演奏会はまだしばらく先です) 、来月は上述のようにほとんどプラハにいないので、何となく今が節目のように感じています。

 
今日聴いたコンサート@ルドルフィヌム ドヴォルザーク・ホール

「ドヴォルザークのプラハ」音楽祭 オープニング・コンサート

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:イオン・マリン
ピアノ:ピーター・ドノホー (イヴァン・モラヴェツの代役として)

 ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」 作品92
 シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
 アンコール/シューマン:アラベスク 作品18
 ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界から」


 この音楽祭は本年第一回目の新設音楽祭で、ここのところプラハの街中ではドヴォルザーク像がルドルフィヌムを眺めているかのようなアングルの写真を用いたこの音楽祭のポスターを至るところで目にします。今日から9月3日まで、ほぼ毎日のようにドヴォルザーク・ホールを会場に演奏会が行われます。今日はその栄えあるオープニング・コンサート。私はもちろん最初のリハーサルから全て見学させていただきました。

 残念だったのはチェコ・ピアニスト界の重鎮、イヴァン・モラヴェツさんのキャンセル。しかし体調が良くないということですので一刻も早くお元気になられることを願うばかりです。キャンセルが決まったのは割とぎりぎりのタイミングだったと思うのですが、音楽祭はよくドノホー氏のようなピアニストをつかまえられたなあと感心します。演奏はまさに「今駆けつけましたあ!」という感じのものすごい勢いで、ゆったりとした気分で聴いたり、聴きながら何か思いに耽ったりする暇などありませんでしたが、こうしたスリリングな演奏も生演奏ならではの楽しみです。短い時間でコンチェルトを準備するだけでも大変だったと思うのに、アンコールとしては長めの「アラベスク」まで弾かれたのにはびっくりでした。

 イオン・マリンさんのドヴォルザークに対するアプローチは、正直に書きますとほとんど全く私には理解できませんでした。その理由は所謂伝統的なアプローチからかけ離れていたというだけではありませんが、今はそのことについて書くのは控えておこうと思います。コンサートで非常に面白かったのは、そのマリンさんのアプローチと、オーケストラが今までに培ってきた伝統 (敢えて書くまでもありませんが、チェコ・フィルの第一回目の演奏会はルドルフィヌムにおけるドヴォルザーク指揮による「新世界から」、それから113年間でおよそ900回この曲を演奏しているそうです) とのせめぎ合いでした。誤解のないように書きますがそれは決して指揮者を無視して自分たちだけでやってしまうということではありません。特にテンポに関しては激変するマリンさんのテンポ作りによく崩壊もせずにあれだけついていけるものだと思ったほどです。しかしその中でオーケストラが持っている音色やフレーズ感の表出を決してあきらめなかった (あきらめられないのでしょうが) ところにこのオーケストラの気骨の強さを感じました。

 こんなに聴いて疲れた「新世界」も今までにありませんが、終わってみれば、今晩のような、指揮者とオーケストラがお互いに (ある時には相反する) 自己主張を止めないまま、でも共存していくことは忘れないような関係性というのはまさにヨーロッパ的とも思われて、貴重な経験をしたと思います。


BGM: ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界から」
     ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
                  (1971年録音、Le chant du monde / Praga)

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