プラハ最後の夜です。あと5時間半もすれば大家さんが迎えにきてくれて、部屋の鍵を返し、彼がそのまま空港まで送ってくれます。相変わらず素晴らしく親切な大家さんです。チェコ・フィルの首席チェロ奏者であり、コンサートマスターでもあるという大物であるにもかかわらず。大家さん夫妻はもはや私の人生の中でも非常に大切な恩人であることは間違いありません。
最後の夜、というとロマンティックなイメージがありますが、実際には部屋の大掃除で感傷に浸っている暇など全くありませんでした。さきほどやっとシャワーブースなど水回りの掃除を終えて、買ったものの部屋でゆっくり飲む余裕もずっとなかったピルスナー・ウルケルの栓を抜いたところです。あと4時間で起床して最後の片付けと出発準備にかからなければいけないので、ビールを飲んでる場合ではないのですが、こいつも今夜中にどうしても飲んどかないと明日の朝捨てるしかありませんので!
日記は気付いたら約2週間ぶりになってしまいました。ここのところ思ったよりも慌ただしく過ごしていたようです。聴いた演奏会の記録は少しずつまとめていたのですが、結局書き終えられないまま今日になってしまいました。不完全ですが消すのも勿体ないので最後に載せておくことにします。
こちらで最後に聴いた演奏会は20日のチェコ・フィルの現代音楽プロでした。ただトリのフィラス作品はバリバリの調性作品で、おかげさまで協和音を壮大に響かせるオーケストラと豊かなホールの音響を最後に存分に味わうことができました。多くのことを与えてくれたオーケストラ、そして快くリハーサルの見学を許可してくださり、ヴィザ取得のための正式な招待状もすぐに出してくださったディレクターのリードルバウフ氏、氏の紹介によってさらにリハーサル見学を許可するかどうかを検討し、最終的に許可を下さったアーティスティック・コミッティーをはじめとする皆様にも改めて感謝です。
今日プラハでは何と雪が降りました。気温もマイナス3度くらいまで下がって一気に冬に逆戻りの雰囲気でした。噂では東京ではもうコートはいらないとか!?
成田着は26日になりますが、その日のうちに回転寿司 (よく私は帰国後そのまま空港内の「海鮮三崎港」に駆け込みます。ああ、ウニよ、イクラよ・・・) と昼寝と散髪とカイロプラクティックと仕事の打ち合わせをこなしてしまいたいので早速かなりギュウギュウの一日になる予定です。27日も朝から動きます。東京での新居もすでにいくつか興味のある物件があって早ければ週末には内見ツアーを始めるかもしれません。しばらくプラハでの生活をゆっくりと思い出す時間もないかもしれませんが、活発に動いて新生活の環境を早く整えてしまいたいと思っています。
この一年半を通じて、自分は少々精神的に強くなったのではと自惚れているのですが、さて実際はどうなのでしょうか。やっぱり自分はこんな程度だったか、などという現実に直面するのも、今はむしろ楽しみであります。
まとまりがありませんが、そろそろ寝ないと明朝大家さんに起こされる、なんてことになりかねませんので、休むことにします。
13日に聴いたコンサート@ルドルフィヌム ドヴォルザーク・ホール
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会 (CDシリーズ第2日)
指揮:シャルル・オリヴィエリ=ムンロウ (Charles Olivieri-Munroe)
ソプラノ:マリエ・ファイトヴァー (Marie Fajtová)
メゾ・ソプラノ:トーヴェ・ダールベルク (Tove Dahlberg)
テノール:ヨハネス・フルム (Johannes Chum)
ブルノ・チェコ・フィルハーモニー合唱団 (合唱指揮:ペトル・フィアラ)
Český filharmonický sbor Brno (Sbormistr: Petr Fiala)
コックス (Baudewijn Cox):交響曲第1番 (初演)
メンデルスゾーン:交響曲第2番 変ロ長調 作品52 「讃歌」
チェコ・フィルの定期を聴くのはこの演奏会が最後でした。でも全然意識していなくて、ホールでお会いしたディレクター氏に「この演奏会が最後じゃない?」と言われて初めて「ああ、そうだっけな」と気付いたくらいです。
指揮のムンロウさんはカナダ生まれですが「プラハの春」国際指揮者コンクールを機にチェコに移り住まれました。チェコ・フィルは何度かお振りになられていて、私がこちらに来て初めて見たチェコ・フィルのリハーサルも彼の指揮でした。
新作を発表されたコックス氏は1965年生まれのベルギーの方。今回の作品はベルギーのロイヤル・フレミッシュ・アカデミーの援助によるチェコ・フィルの委嘱という形になっています。曲は3楽章構成で、部分的に四分音なども使われているようでしたが全体的には音構造は解り易い感じを受けました。
今日改めて感じたのはメンデルスゾーンの偉大さ。そしてその作品の偉大さを見せつけたブルノの合唱団の素晴らしさです。間違いなく実力はチェコ随一でしょう。スコーンと抜けてくる響きは神々しいことこの上なかったです。
1日に観た公演@プラハ国民劇場
ヤナーチェク:歌劇「イェヌーファ」
Janáček: Její pastorkyňa (verze Karla Kovařévice)
(9. ročník Festivalu hudebního divadla – OPERA 2009)
Dirigent: Ivan Pařík
Režíe: Jan Burian
Choreografie: Alena Pešková
Sbormistr: Zdeněk Vimr
Stařenka Buryjovka: Dagmar Volfová
Luca Klemeň: Tomáš Černý
Števa Buryja: Richard Samek
Kosternička Buryjovka: Adriana Hlavsová
Jenůfa, Její pastorkyňa: Ivana Veberová
Stárek: Jiří Hájek
Rychtář: Tomaš Jindra
Richtářka: Iveta Žižlavská – Koppová
Karolka, jejich dcera: Radka Sehnoutková
Pastuchyňa: Jana Vokurková
Barena, služka ve mlýně: Eva Brabcová
Jano, pasák: Anna Marie Štěpánková
Tetka: Šárka Korunková
Muž: David Cody
Sbor a orchestr opery a balet Divadlo J. K. Tyla v Plzni
「第9回 (年) 音楽劇場フェスティバル〜オペラ2009」とでも訳せば良いのでしょうか。そのような内容のフェスティバルでいくつかのチェコの地方劇場がプラハで公演を打ちました。そのうちの一つ、プルゼニュのヨセフ・カイエターン・ティル劇場が国民劇場で上演した「イェヌーファ」を観ました。昨秋ブルノで観た公演が初演版だったのに対し、今日はここプラハの国民劇場で上演された時の指揮者、コヴァジョヴィッツの改訂版が使われていました。第3幕の終わりなどはかなりオーケストラがゴージャスになっていて私の耳には若干違和感があったことは確かです。
しかし何という話なのでしょう。「カヴァレリア・ルスティカーナ」などに見る、あのイタリアのヴェリズモ・オペラで見る人間たちとは一味違った、プライソヴァーの描いたモラヴィアの人達の、どうにもみんな勝手でお互いがお互いを住みにくくさせているような暗い人間模様、閉鎖性、救い難さ。オペラの終わり、ハ長調から変ロ長調に転じて、イェヌーファとラツァはモラヴィアから外に出ていきます。幸福になるためには外に出るしかない。当時のモラヴィアの人はこのプロットをどう受け止めていたのでしょうか。プラハ、つまりボヘミアの人たちには自分たちの世界からは少々離れたエキゾチックなものと映っていたようですが。
5日に観た公演@プラハ国民劇場
スメタナ:歌劇「売られた花嫁」
Smetana: Prodaná nevěsta
Dirigent: Ondrej Lenárd
Režie: Magdalena Švecová
Choreografie: Ladislava Košíková
Sbormistr: Pavel Vaněk
Mařenka: Pavla Vykopalová
Jeník: Aleš Briscein
Kecal: Zdeněk Plech
Vašek: Václav Lemberk
Ludmilla: Jitka Soběhartová
Krušina: Roman Janál
Háta: Lenka Šmídová
Mícha: Aleš Hendrych
Esmeralda: Kateřina Kněžíková
Principál: Jan Ježek
Indián: Martin Matoušek
Orchestr a sbor Národního divadla, tanečníci,
členové Kühnova dětského sboru
a členové Divadla Continuo (umělecký vedoucí: Pavel Štourač)
実はまだこちらで「売られた花嫁」をオペラの生上演で観ていなかったので、これはいかんと思い出掛けましたが、これは当たりでした。まずレナルト氏が指揮されていたし、イェニークが私の好きな若々しく張りのある声の名テノール、ブリスツェイン氏だったのもラッキーでした。
このオペラ、まさにこの劇場で初演され、スメタナが初演を含め生前49回の上演を指揮した作品。それでちゃんとした上演が出来なかったらアイデンティティ崩壊だよ?という、いわばこの劇場の鉄板演目です。さすがにオーケストラの響きも違いましたし、特に合唱団のパワーと声・言葉の揃い方がいつもと大違いでした。国民的なオペラというと日本では「夕鶴」ということになるのだと思うのですが、日本で「夕鶴」だったらどんなことがあってもしっかりした上演ができるぞ、という経験値を持ったオペラ団体がないのは、少々悲しいことだなあ、などと思ってしまいました。
ポルカやフリアントのテンポ感も本当に気持ちが良くて、これはやっぱり観ておいて良かった公演でした。
18日に聴いたコンサート@市民会館 スメタナ・ホール
プラハ交響楽団 オーケストラ・シリーズC 第6回演奏会
指揮:ペトリ・サカリ (Petri Sakari)
ピアノ:パアーヴァリ・ユンパネン (Paavali Jumppanen)
ウェーベルン:パッサカリア 作品1
シェーンベルク:ピアノ協奏曲 作品42
アンコール/ (曲目不明)
ツェムリンスキー:交響詩「人魚姫」
残念なことに定期 (予約演奏会、と言うべきか!?) であるにもかかわらず5割ほどのお客さんの入り。どうにも寂しい雰囲気だったので一生懸命拍手しました。サカリ氏はこのプログラムにもかかわらずよくプラハ響をまとめきっていらっしゃり、オーケストラから舞台上で大いに讃えられていました。
19日に聴いたコンサート@ルドルフィヌム ドヴォルザーク・ホール
チェコ・フィルハーモニー「プラハ・プレミエ2009」
Česká filharmonie: Pražké premiéry 2009
Czech Philharmonic: Prague Premieres 2008
アンサンブル・モデルン (Ensemble Modern)
bicí nástroje / percussion: Rainer Römer
housle / violin: Rafal Zambrzycki-Payne
violoncello / cello: Eva Böcker
zvuková režie / sound engineer: Norbert Ommer
dirigent / conductor: Matthias Pintscher
Michael van der Aa (*1970, Netherlands):
Matthias Pintscher (*1971, Germany):
Matthias Pintscher: Study III für Violine solo, 2007 (Czech premiere)
Miroslav Srnka (*1975, Czech Republic):
Matthias Pintscher: Study I für Violine und Violoncello, 2004 (Czech premiere)
Wolfgang Rihm (*1952, Germany):
Enno Poppe (*1969, Germany): Salz, 2005 (Czech premiere)
恐るべきマティアス・ピンチャーの才能。
20日に聴いたコンサート@ルドルフィヌム ドヴォルザーク・ホール
チェコ・フィルハーモニー「プラハ・プレミエ2009」
Česká filharmonie: Pražké premiéry 2009
Czech Philharmonic: Prague Premieres 2008
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 (Česká filharmonie)
trombon / trombone: Jörgen van Rijen
recitace / recitation: Dalimil Klapa, Pavel Pípal
režie slova / word direction: Lubomír Poživil
dirigent / conductor: Jonathan Stockhammer
Harrison Birtwistle (*1934, Great Britain):
Theo Verbey (*1959):
Luraj Filas (*1955, Czech Republic):
(world premiere)
BGM:ドヴォルザーク:スターバート・マーテル (1876年イギリス初演版)
デイヴィッド・ヒル指揮BBCシンガーズ ほか (2009年3月19日放送、BBC Radio 3)