Diary


5/28

 ラッヘンマン作品の演奏会、無事に終了しました。本番は客席で聴きましたが、緊張度の高い充実した演奏で関係者ながら感激しました。全曲演奏に先立って行われた実演付きの作曲者による解説、私たちはどこを演奏するかということは事前に伺っていましたが、お話の内容については知りませんでした。今までにラッヘンマンさんから作品については色々とお話は伺っていましたが、その私にとっても初めて耳にする内容のお話もあり、とても興味深かったです。特殊な奏法や、そこから生まれる特殊な音響がどうしても注目を集める彼の作品ですが、話を伺えば伺うほど、彼が自分自身のアイデンティティをバッハ、ベートーヴェンからつながるドイツの作曲家であるというところに置いていること、そしてそれが彼の音楽の構造への強いこだわりとつながっていることを痛いほど感じます。「音響」は〜私が感じるに〜彼にとって最も大切なことではないように思います。もちろん彼にとって大切なテーマであることには間違いはありませんが。


 私はこのお仕事の準備を今年の1月に入ってすぐから始めました。2月頭にラッヘンマン氏とお会いして打ち合わせをすることになっていたからです。あまりに譜読みが大変で、実は何度もこのお仕事をキャンセルしようかと思いました。自分には荷が重すぎると思ったのです。

 結局譜読みも完全には終わらないまま、シュトゥットガルト近郊のラッヘンマン氏のお宅に伺うことになりました。ラッヘンマン夫妻はあたたかく迎えてくださり、まずは打ち合わせもそこそこに昼食を御馳走に (笑) 。そのあと、まずは特殊な楽器とその入手方法を伺い、パート練習についての非常に細かい指示から奏者に関するリクエストまであらゆる要望を伺い、そのあとは実際にヴァイオリンとチェロを持って特殊奏法のレクチャーを数時間受けました。

 そこで夕食の時間になり、ワインを飲んでしまって「今日はもうやめよう」(笑)という話になりました。当初はラッヘンマン氏宅に宿泊予定だったのですが、彼が「人の家に泊まるのは気を遣うものだ」と仰って、何と彼のポケットマネーでホテルをとってくださいました。こんなところにも彼の人柄がうかがえます。ホテルでは夜中の1時までパソコンに向かって東京に送るレポートをまとめていたことを覚えています。

 翌朝、ホテルまで氏が迎えにきてくださり、朝の10時から今度は「アカント」のスコアを広げてとにかくあらゆる疑問をぶつけました。昼食をとったのが確か15時頃。そこまで全く休みなしでした。昼食後も私の電車の時間の20分までみっちりと。その後、シュトゥットガルトからパリに向かうTGVの中で再度レポート作成。

 本番中、頭の中に時折楽譜を思い浮かべながら、あの2日間のことを思い出してちょっと心がうるうるしてしまいました。終演後のレセプションの際、氏が全員の前で私の名前を出してくださったとき、恥ずかしかったですけれど、またちょっぴりうるうると・・・

 主催のオペラシティのプロデューサーの方にもとてもお世話になりました。最初はこいつに頼んで果たして大丈夫なのかと、さぞ心配されたのでは・・・ 辛抱強く見守っていただきました。私は氏のように、どんな音楽も良く識っていて(特に現代ものに対する知識は驚異的!)、実務のテクニックにも長け、アーティストの起用の仕方にもしっかりとした哲学を持ち、しかもいつでもどこか軽々としていられるような業界関係者を他に知りません。名プロデューサーあっての名演奏、このことを強く実感した半年でした。

 新たな出会いも刺激的でした。ソリストの岡さんと橋本さん、通訳の蔵原さん、音響の宮沢さんなど・・・ すごい才能が集結している現場にいられて興奮度の高い一週間を過ごすことが出来ました。

 そして何より、いつも貴重な機会をくださる私のボス、飯森範親さんに感謝です!

 というわけで、終わり!!


BGM:モーツァルト:クラリネット協奏曲
   ペーター・シュミードル (Cl.) 、レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
                              (1987年録音、Deutsche Grammophon)

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