4日の日記で書かせていただいた事業仕分けの件、多くの方々がご協力下さったようでした。心から御礼申し上げます。まだ細かいところまでの情報が入手できていないので軽はずみには書けませんが、皆様のご協力の効果がかなり出ているようです。本当にありがとうございました。
私たち芸術従事者が、自分たちのやっていることについて、世間様にどう向き合っていかねばならないか、そのことをもっと真剣に考えていかないと、日本における文化の未来はないと真剣に思ったこの一ヶ月でした(非常に抽象的な書き方でごめんなさい)。
さて、大晦日ということもあり今年のまとめを書いてみたいところですがその前に今月だけでもイベントてんこ盛りでしたので振り返ってみると・・・
まずは東京交響楽団定期演奏会のヤナーチェク「ブロウチェク氏の旅」(6日)。東響コーラスの合唱指揮者として練習を重ね、またキャストの稽古を一部指揮したり、本番では歌手への歌の入りのキュー出しをしたりして、いつもお世話になっている飯森さんのサポートをしました。
ヤナーチェクのこのオペラは特に重唱部分で音楽の「すき間」が少ないのでちょっと歌とオーケストラがずれただけでも修正が非常に難しいのです。そこで私が歌手のフォローをすることになったのですが、今回のリハーサル期間ではちょっと忘れられないことがありました・・・
オーケストラと歌手で演技をつけて初めてリハーサルをした時、どうしてもうまく両者がかみあわないところがありました。何回かやったのですがうまくいかず、とうとう該当のチェコ人の歌手の方が私に「てめえの合図が早すぎんだよ! オレはマエストロ(飯森さん)を見るからな!」と(チェコ語で)キレてしまったのです。
私としては合図を早く出しているつもりもありませんでしたが、彼には本当に早く見えたのかもしれませんからそこらへんの真相を追求しても意味のないことでしょう。ともかく副指揮者をしているとこのような「とばっちり」を受けることは時々あるものです。私が腹を立てなかったといえば嘘ですが、みんな出来るだけ良い雰囲気の中で練習したいものですからね、その日は一生懸命気持ちを抑えて仕事を続けました。
大体私は一晩寝ると嫌なことも忘れるので、次の日は当該歌手の方とも普通に挨拶や話をしたりしてからリハーサルに入りました。昨日のことはすっかり過去のこと、といった雰囲気でリハは進み、最初の休憩をとってさて再開、オーケストラがチューニングを終えた時、その歌手の方が「マエストロ、私に1分時間をください」と仰り、いきなり全員の前で「昨日私は最初の合わせでとても緊張しており、大井さんにとても失礼なことを言ってしまった。ここで彼に謝りたい。」と仰ったのです。彼は私にはチェコ語でキレたのだから、日本人で彼が何を昨日言ったか理解しているのは私だけなのに・・・ もちろんその歌手の方とは全員の前でハグさせていただきましたよ! 音楽家としての知名度や立場が高くなればなるほど、自分の非や失敗を認めなくなる人が多いこの世界で過ごしている日々の中で、ちょっと忘れがたい一コマでした。
慣れないチェコ語を必死に習得し、本番には完璧な暗譜で臨んだ驚異のアマチュア合唱団、東響コーラスとの時間も楽しいものでした。素晴らしいピアニストや言語指導の先生に恵まれたこともありますが、よく厳しいスケジュールの中であそこまでもっていってくれたと感謝しています。合唱指揮者のお仕事はその分野のプロフェッショナルの方がおやりになるべきとの思いから、今回を人生最後の合唱指揮の仕事にすると公言していましたが、最後に良い方々と出会えて良かったという思いでいっぱいです。
このペースで書いていくとえらく長くなってしまうな・・・ 「ブロウチェク」の本番前日の5日は空き日だったので銀座に東京室内歌劇場公演、木下牧子さん作曲のオペラ「不思議の国のアリス」を観に行きました。初演を指揮させていただいたこの作品、多くの人たちによって上演されるようになってほしいと前から願っていたので、経験者と初チャレンジャーが半々程度のキャスティングで行われたこの公演は、その第一歩としてとても嬉しいのです。いつものことながら舞台機構をフルに使いきる鵜山さんの巧みなステージングは見事でした。
「ブロウチェク」の次の日の7日はニューフィル千葉の皆さんと千葉県議会及び千葉駅前のそごうにて30分ほどのミニコンサート。コンサートの間、曲が終わってお辞儀をする度にどんどんお客様が増えているのが毎度びっくり、嬉しかったです。また機会があれば内容も私の下手なMCもよりブラッシュアップしていきますです。
そして8日からはひたすら「くるみ割り人形」に集中・・・ 牧芸術監督をはじめとする全てのバレエ団関係者のお力に支えられて何とか最終日まで辿り着けました。そして、東京フィルの美しい音は今でも耳に残っているほどです。実は・・・指揮者としては失格なのかもしれませんが・・・初日の第一幕、クララと王子のパ・ド・ドゥの場面で、あまりにオーケストラの音も舞台上も美しくて思わず涙が、そしたら何故かこれまでの人生の辛かったこととか苦しかったこととか(一応、私にもあるんです)が次々に頭の中に浮かんできてますます涙が、、そうしたら次はその辛かったことや苦しかったことが東京フィルの奏でる音楽や舞台の美しさによって全て洗い流されるような気がしてきてますます涙が涙が、、、となってしまい、自分をコントロールするのが大変でした。本番中あんな不思議な気持ちに襲われたのは全くもって初めてでした。
26日で公演が終わるも、27日と28日はニューイヤーオペラパレスガラの稽古やそのオーケストラ練習、29日は日本バレエ協会のリハーサルに伺うなどお仕事は続きました。やっと昨日から4日間の年末年始休暇、昨日は全ての事務的業務をお休みさせていただいて、夏にいただいた贈り物のレゴブロックの完成に全力を注いでおりました。昼食後に作業を開始、夕食も忘れて午前1時半過ぎに遂に完成したのはこちら!
ああ、今年もあと数時間でおしまいです。今年はプラハから帰ってきて、東京都内ではありますが昔とはまた全然違う場所に家を借りましたので再び生活環境もガラリと変わりました。11月以降は主に車で移動するようにもなりましたし。お仕事の面では予想以上の多くの機会をいただきました。約半年抱えたラッヘンマン、夏休みを返上して取り組んでみた「わが祖国」の楽譜の校訂作業、そして9月の始めからのスケジュールは一年半もプラハで遊び呆けていた私にはホントきつくて、すっかり「今日こそ死ぬ・・・明日こそ死ぬ・・・」が口癖になっていた時期もあったほどです。しかしまだ生きています(笑)。
今年一年お世話になった方々に心からの感謝を。そして、皆様よいお年を!