Diary


5/24

 午前の遅い時間に友人と待ち合わせて、色々と案内してもらいました。最初は聖ニコライ教会。ここでは東ドイツ時代末期に「月曜デモ」という名の集会が起こり、それがあのベルリンの壁の崩壊とドイツの統一につながっていったといいます。そういえばその時はクルト・マズア先生も色々とご活躍されたのだなあと思い出しました。ゲヴァントハウスからここまでは徒歩5分もかからないのかな?


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 続いて歌劇場でチケットを購入。今夜、シャイー氏の指揮で「マノン・レスコー」が上演されることを知ったのでした。チケット売場の人には「残り4席」と言われました。無事購入できて良かった。今回はついてます。

 友人の勧めによりトラム (ドイツ風に、シュトラッセンバーンと言うべきか) に乗って「諸国民戦争記念碑」に (写真がうまく撮れていなくて申し訳ありませんが、とにかくどでかいスケールだということはお分かりいただけると思います) 。

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 すごく古そうなのに、意外にも1913年完成だとか。頑張って記念碑の上まで階段で昇ると、ライプツィヒの景色が一望できてすこぶる爽快でした。私の「地球の歩き方」には載っていなかったので、友人が教えてくれなかったら来ることはなかったと思う。感謝です。

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 街中に戻って15時からの聖トーマス教会での演奏会を聴くべく教会の前に並びました。ここでバッハが長年仕事をしたのか、と想像すると心が震えます。


 今日聴いたモテット@ライプツィヒ 聖トーマス教会

 オルガン:ウルリヒ・ベーメ
 ソプラノ:コンラート・ズーバー、オスカー・ディット
 アルト:マルティン・デッケルマン
 テノール:マルティン・ペッツォルト
 バス:マティアス・ヴァイヒェルト
 ライプツィヒ聖トーマス教会合唱団
 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
 指揮:ゲオルク・クリストフ・ビラー

  J.S.バッハ:前奏曲とフーガ ハ長調 BWV 547 から 前奏曲
  シャイン:「オペラ・ノヴァ」 から
       「主なる神が私たちの側にいてくれなかったら」
  バッハ:カンタータ第178番
       「主なる神が私たちの側にいてくれなかったら」 BWV 178
  会衆歌「今ぞわれら精霊に願いたてまつる」
                 (コラール: J.S.バッハ, BWV 385)
  J.C.バッハ:クレド・ブレーヴェ ハ長調
  J.C.バッハ:マニフィカト ハ長調


 正式には演奏会ではなくて「モテット」というタイトルがつけられていましたが、プログラムには所謂「モテット」という音楽ジャンルはなく、この演奏会名としての「モテット」というのはどのようにとらえるものなのかが不勉強ゆえ分かりませんでした。しかもタイトルが「モテットとカンタータ」となる時もあるようで、じゃあ今日はどうしてカンタータが演奏されるのに「モテットとカンタータ」ではなくて単に「モテット」なんだ、などと考えるともう何だか分かりません。このジャンルももう少し詳しくなっておきたいです。

 教会の構造上、演奏者に背中を向けて演奏を聴く状態になります。自分の頭上後方から降ってくる音楽に耳を傾けるというのは初めての経験でした。曲間には牧師さんのお話もあり、会衆歌を全員で歌うことも体験したりと、色々と得難い体験ができました。もし私がライプツィヒに住んだとしたら、必ず毎週来ると思います。何せ入場料はたったの2ユーロなんですから!

 遅い昼食を「カフェ・バウム」で。ゲーテ、シューマン、リスト、ワーグナーが常連だったと言います。ヨーロッパで最も古い歴史を持つカフェだそうですが、特に格式が高そうな雰囲気もなく、味もまあ普通・・・ 数多くの芸術家たちを引き寄せたこのカフェの秘密は発見できず。びっくりしたことにここで以前ご一緒にお仕事をした日本人の声楽家の方にお会いしました。そういえば書き忘れていましたが昨日も道端でやはり芸大の先輩 (指揮科ではありませんが) に偶然お目にかかったのでした。いつどこで誰に会うか分からないものですねえ。

 さて! 本日のメイン・イベントである歌劇場に向かいました。


 今日観た公演@ライプツィヒ歌劇場

 プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」

  指揮:リッカルド・シャイー
  演出:ジャンカルロ・デル・モナコ

  マノン・レスコー:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
  レスコー:テディー・T・ローデス
  デ・グリュー:アレクサンドルス・アントネンコ
  ジェロンテ:ジェイムズ・メレンホフ
  エドモンド:エマヌエーレ・ジャンニーノ
  旅籠屋の主人:ウルヴィン・ノアック
  舞踏教師:マルティン・ペッツォルト
  音楽家:ガブリエラ・シェーラー
  点灯夫:ヨルディ・モリーナ
  軍曹:ミクローシュ・セベスティエーン
  海軍司令官:ルーカス・シュミット

  ライプツィヒ歌劇場合唱団 (合唱指揮:ゼーレン・エックホフ)
  ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

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 ライプツィヒ歌劇場は新しい建物で、席が良かったこともありますがとても舞台が観易く快適でした。その代わりシャイー氏とオーケストラは全く見えませんでしたが、聞こえてくる演奏は全体に極めて生き生きとしていて鮮やかでした。歌とのずれもほとんどなくて流石でした。シャイー氏もオーケストラも、こんな高い質の演奏を連日繰り出せるなんて凄いとしか言いようがありません。

 ヨハネス・ライアッカー氏による舞台は美しく、公演を動く絵として眺めるだけでも十分に鑑賞価値がありました。1幕から4幕にかけて舞台奥の空間が次第に閉じられていくのですが、これはマノンとデ・グリューの未来が次第に閉じられていくことを表現しているのでしょうか。

 デル・モナコ氏の演出は20世紀前半 (?) に時代設定を置き換えたもので、馬車も登場しなければ、第2幕の踊りのレッスンで使われる音楽も生演奏ではなくて蓄音機でという設定でした。例えばここの設定ではオーケストラで模される楽士たちのチューニングの音などが意味をなさなくなってしまうなど、細かく見れば疑問を持ってしまう部分もありましたが、良質の演奏と細かい演技の表現、舞台の見た目の美しさに実際にはさしたるひっかかりもなく鑑賞できてしまいました。

 特に見た目で面白かったのは第1幕のコーラスの扱い方で、マノンとデ・グリューの最初のデュエットの場面で完全にコーラスをストップ・モーションにしてしまったことでした (合唱団は相当大変なことでしょう!)。そしてそれに続くのデ・グリューのソロの部分ではスロー・モーションに (これはもっと大変!?) 。この演出によって、デ・グリューの心のときめきが十二分に表現されていました。

 時代を置き換えた演出ということで私が最も危惧したのは第4幕だったのですが、ここでは敢えて空の舞台に砂漠だけという思い切った舞台美術と演出だったので、2人の心理的なドラマに集中して鑑賞することができました。

 朝から晩まで、色々と堪能し尽くした一日でした。


BGM: J.S.バッハ:ヨハネ受難曲
     ゲオルク・クリストフ・ビラー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、
                        ライプツィヒ聖トーマス教会合唱団ほか
                                  (2007年録音、Rondeau)

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